『ガロア 天才数学者の生涯』 を読んだ
- 作者: 加藤文元
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/12/01
- メディア: 単行本
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非常によい本だった。
本書では、現代数学の基礎を作った天才、エヴァリスト・ガロアの生涯のみならず、彼の生きた社会やガロア理論に関する数学史についても簡潔にまとめられている。
本書を読むまで、私はガロアの生涯についてほんの僅かしか知らなかった。10代で現代数学の礎となる群論の基礎を作り上げ、激動のフランスの中で革命運動に身を投じ、20歳で決闘によって命を落とすという、あまりにも短い生涯。溢れんばかりの才能を持ちながら、進む方向を間違えてしまった悲運の天才。ガロアに対しては、そのような創作物語の主人公のようなイメージを抱いていた。
この本のおかげで私の抱いていたイメージはより鮮明になり、かつ現実世界の歴史の中にしっかりと根を下ろした。ガロアという天才個人と、激動のフランス(それは丁度、レ・ミゼラブルで描かれたフランスと重なる)、そして代数方程式の代数的可解性の問題の解決に力を注いでいた数学界とが密接に関連付けられたのである。
また、ガロアの生涯を語る上で非常に重要な点である「決闘の経緯」については、陰謀説、自殺説、恋愛説など諸説あるが、本書においてはそれらを平等に挙げた上で過去の文献を比較検討し、中立的な視点で描かれている。可能性を列挙して推論可能なところまで紹介し、なおかつ言い過ぎは避けるという語り口には、論理を重要視する誠実な印象をうけた。
この箇所をはじめ、著者の書き方は歴史に忠実であることを重視している。歴史的文献をしっかりと比較検討したうえで、悲劇の主人公としてのガロアではなく、実際に七月革命の激動のフランスに生きた、歴史を変えるほどの数学の天才で、なおかつ自尊心が高く、父親を心から尊敬する若者であったガロアを描こうとしている。
本書では数学史の知識を持たない人間でも読めるように、多くの部分を割いてガロア以前の数学界の状況について語られている。そのため、門外漢の私でも数学部分について楽しく読む事が出来た。理数系の大学の教養課程を経てなおかつ抽象代数をかじっていれば、数学史的内容の概要をしっかり理解できると思われる。
この書物を介してガロアの一生に触れる事は、自分のしたいこと、するべき事についてもう一度見直す契機となった。自分の人生を賭してもやりたいことがあり、その道を目指してがむしゃらに動けるというのは、世界で最も贅沢な事のひとつなのだろう。その機会があるなら、人生をかけてもお釣りがくるかもしれない。