レビュー感想

Physical Organic Chemistry􏰠Development and Perspectives (http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ijch.201400200/abstract)

を読んだ。有機化学反応速度の定量化を情熱的に進めているProf. Herbert Mayrのレビューである。
有機化学全般におけるKineticsの重要性を強調されており、なおかつ有機合成化学者がその重要性を理解していないことを心配されているMayr教授であるが、この論文においてその思想が明瞭に書かれている。
物理有機化学は20世紀初期〜中期にその根本が確立され、近年になって計算科学の発展の恩恵を受けてさらなる飛躍を見せている。一方で、この学問分野の特徴である有機化学現象の定量化の結果は、有機化学の教科書から少しずつ消えてきており、有機化学を志す者が先人が残した物理有機化学の成果に触れる機会が減っている。分野の蛸壺化だ。
私見としては、合成や反応を生業にしている人間について、物理有機化学ベースで定量的な視座から合成・反応開発を行う一部の化学者と、人名反応の学習&ハードワークを行う大多数の化学者に二分しているように感じており、先人の知恵を引き継げなくなるという危惧については頷くところが多い。まあ、物理化学が微妙なエネルギー差を利用する現代の有機化学に追いついていないという面も否定できないが。

Summary and Outlookにおいては人間の直観への大いなる期待が込められており、物理有機化学を学び、生かそうとする者へのエールとなっている。落ち込んだ時に読むと勇気がもらえるだろう。